醤油醸造は、明治以降日本が近代化していく中で徐々に機械化され大量生産・味の均一化へと進んでいきました。原料の大豆、小麦は戦後、国策で国内ではなく海外から輸入することを強いられ現在もそれは続いています。また、核家族化や調味料の多様化で、大手メーカーが低価格を追及し、短期間の発酵で醤油を絞ることが主流となりました。その為 江戸時代に確立された伝統の醸造方法は殆ど無くなってしまい、同時に醤油が持つ本来の風味は人々から忘れ去られてしまったのが現状です。
当店は創業90年の節目を迎えた頃、年配のお客様から「昔のお醤油の味が忘れられない。」というお言葉をいただき、日本の伝統調味料である醤油の原点を見つめ直す事が当店の新たな使命ではないかと考えるようになり、昔ながらの手作り醤油復活に挑戦することになりました。この醸造方法を一言で表すと「究極の手作り」です。
このプロジェクトにはたくさんの方にご協力を頂きました。高齢で引退された元醤油店主さんや東京の「醤油技術センター」の方には遠い昔の製法を教えてもらい元造り酒屋さんには古道具を譲っていただきました。また大工さんと一緒に資料館にも足を運び古式醸造の道具の研究をいたしました。そして舞台となる古式醸造の蔵を再現することができたのです。カマドも手作りしましたが、中でも難しかったのは昔の「天秤式もろみ搾り機」の復元です。これは大工さんと一緒に試行錯誤した労作です。次世代へ伝承しなくてはならない古式醸造醤油の復活には欠かせないものなのです。
醤油の原料となる3品は、地元の丸大豆「さちゆたか」、小麦「ふくほのか」、赤穂の塩と地元の農産物にこだわりました。仕込みは年に2回春・秋に行い、温度管理などは一切せず、自然の力のみで寒暖を繰り返し、熟成・発酵させます。そして熟成を終えたもろみは、復元した「天秤式もろみ搾り機」で石と木の重みだけで、ゆっくりと搾り出します。こうして、じわじわ滲み出してくる醤油を「古式しょうゆ」と名付けました。時代を超え現代に蘇った雑味のないまろやかな味は、醤油の原点といえるでしょう.
仕込み工程
①原材料を準備する
材料はシンプルに3種類のみです。余計なものは一切入っておりません。丸大豆・小麦・塩。
②丸大豆を煮る
丸大豆「さちゆたか」30キロを前日から水につけ、やわらかくした後、かまどで4時間かけてじっくり炊き上げます。薪で炊くため火加減がむずかしい作業です。最後は水分がほとんどなくなりアメ色になります。口に入れるとやわらかさと大豆の甘さが口いっぱいに広がります。
③小麦を炒る
小麦「ふくほのか」30キロを平釜で数回にわけて休むことなく炒り続けます。少し気を抜くとすぐに底に焦げついてしまいます。小麦のでんぷんをアルファ化して酵素の作用を容易にするための作業です。きつね色になった小麦は冷却後、大豆の表面をおおう程度に割砕します。
④粉合わせ
製麹作業の第一段階は前処理を終えた大豆と小麦を混合し、種麹を加えます。種麹は高温では死滅しますので大豆が冷めるように何回も手やスコップで切り返しを行います。大豆の水分を小麦になじませた後、種麹をふりかけ、手で丁寧に混ぜ合わせます。
⑤盛り込み
いよいよ麹蓋(こうじぶた)と呼ばれる浅い箱に原料を入れ、麹室に収めます。一回が約50枚程度です、最も雑菌に侵されやすい作業なので慎重に棚に並べていきます。室内の通風調整はとても重要です。麹蓋の底板は少し隙間があり適度な水分・風・温度をうけやすくなっています。
⑥製麹
約40時間以上をかけて麹室で麹菌を繁殖させます。室内の温度・湿度・通風などは機械管理でないため調整がとても難しいです。室内は温度約30度、湿度約80%になります。途中に手入れと称する混ぜ合わせ作業を2回行います。菌が増えると大豆が緑色の粉に覆われ硬くなります。
⑦仕込み
麹室から出した麹を赤穂塩を溶かした塩水樽に入れます。これが分解・発酵・熟成の後「もろみ」と呼ばれる醤油の元になります。日本の四季の温度経過がもろみの熟成に大変適しているといわれます。これが一般に天然醸造と呼ばれるものです。
⑧醤油を搾る
いよいよ醤油を搾ります。当店は国内でも大変めずらしい木製の天秤搾り機を再現・復活させました。たくさんの石を棒の先に吊るしその重みでじっくり搾ります。そのため雑味は粕とともに残り美味しいところだけが搾れます。搾った汁は「生揚げ」と呼ばれます。
⑨醤油を食す
搾り終えた生揚げの火入れを行い、瓶に詰めます。そして、昔ながらの味わいを届けることができるのです。
★古式丸大豆しょうゆ / 醸造期間は1年程度。醤油の旨みと穏やかな塩角、かけものにおすすめ
★古式三年しょうゆ / 醸造期間は3年程度。醤油の濃厚な味わいと塩角、刺身におすすめ